あれは夏の終りを知らない9月の夜だった。
「アイスコーヒーの容器がかいた汗は、手を洗えるかもしれないね」。不寛容と正義で成り立つ自粛警察から取り締まられるようなことを、妻ちゃんが口に出してしまう日だった。
妻ちゃんと、とある公園を歩いていると多目的トイレの前に自転車が2台止まっていた。すると高校生の男女カップルが多目的トイレから出てくる。
スニーカーの紐が解けた妻ちゃんは綺麗な蝶々を作るために灯りの下でうずくまる。この行為が妻ちゃんに多目的トイレの秘密を抱かせることになった。
高校生の女子つまりJKが彼氏に向けて下敷きで風を送るところまで目撃する時を創造した紐が解けたスニーカー。
硬い結び目を作った妻ちゃんと僕は、なんらかの行為で火照った彼氏に風を送る彼女の前を必然的に通らなければならなかった。
そして妻ちゃんは言う。「多目的トイレって暑いのかな?」
そこか。
多目的トイレの前に自転車2台の駐輪、多目的トイレから高校生カップルが出てきた。彼女が汗だくであろう彼氏に送風。
君はここまで目撃をしたはずなのに、夏の多目的トイレの室温のほうが気になる。なんてかわいいのだろう。
「夏だから暑いだろうね」と返しながら、大分にある世界的企業の工場の人が言っていたことを思い出す。
「ゴムをトイレに流されると困るんですよね。溶けるゴム開発したらすごいですよ」。
工場の人は作業で指にはめるゴムだが、僕はあちらのゴムの行方を案じる。そもそも存在しなかったゴムであれば、トイレで火照り発汗していた彼氏を扇いでいたあのJKを案じる。
土曜日ワイドショーを見ていると、夫婦はソファであの日のことを瞬時に共有し「多目的トイレ」はパワーワードになった。
「もしかしてあの日の高校生は…」と妻ちゃんがあの日の多目的トイレの秘密を回収。「そもそも間接証拠であり、ただの仲良しトイレかもしれない」と苦しい返答をする僕。
「仲良しトイレ?でも多目的トイレだから仲良しトイレでもよくないよ」というので、「多目的に多様性。互換性がある場所なのかもしれない」と返す。
僕はこんな苦しい言い訳を作ったよ、ダイバーシティ。
「多目的トイレの話をもうよそう」。週末に多目的トイレの話をする価値を共有できないことで落ち着く夫婦。
僕らが目撃した多目的カップル時代を生きる多感な世代の何割かがタイプの人としてあげる「価値観が違う人」と、結婚しないで良かった。
大分市で話題となった透明トイレを思い出す。動くことで透明ガラスが濁る仕組み。アートもあった。
トイレに定評がある大分市だ。
ループし規則性ある運動を探知して、余計なアナウンスを流し退室へと誘う装置を作るのはどうだろうか?大分市に提案し、佐藤市長から微笑みながらぶっ飛ばされたい。
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