彼女と付き合うようになって聞くようになったわけではない。
歳が離れた姉、その影響から僕と歳が近い姉、そして中学の後輩である妻ちゃんといった系譜を持つのが、僕が知る槇原敬之さん。
婚約指輪は「フロントガラス雨粒を赤信号がルビーに変える(2つの願い)」の歌詞からルビーにした。ちょっと関係がこじれたときは「わたしの笑顔のもとは何も君じゃない(同)」なんて、僕はぶつけられる。
ときおりベッドでは「本気で好きになったみたい(Witch hazel)」と、小学校2年生から僕のことが好きである彼女はつぶやく。
それほど槇原敬之さんで人格形成という影響を受けているのが妻ちゃん。彼女は気配りができ、優しさとユーモアに溢れている。槇原さんからもらった感性だと彼女は言うが、僕は両親だと思う。
1度目の逮捕はそれほど僕らは知らない年齢なので、2回目という世間的な関心ではない純粋なショックを彼女は受けるはず。
スマホにメッセージを送るのもなんだし、帰ってからゆっくりと会話をすればいい。そう戦略を企て、どんな風に励まそうかと考える。
妻ちゃんが好きな槇原さんの歌詞を引っ掛けることに決めた。直近の記憶から引っ張り出す。
僕が槇原さんの歌詞を用いることに意味がある。そう準備をして待ち受けていると、帰ってきた。
「判決まで待って。捕まったけれど、まだマッキーは生きているよ(まだ生きている)」。槇原さんの歌詞を織り交ぜて来るとは。
「フロントガラスのルビーを見せたいから、雨が降る明日まで待ってほしい。出掛けて外で食べるよね?」と尋ねると、「明日(14日)は外で食べるって約束したじゃん!」とわんわん泣き始める。
確認しただけなのに…。そして準備した歌詞たちの出番は完全に失われた。
「全集中・悲しみの呼吸一の型 号泣」と、鬼滅ガール(キッズ)に向けた慰めは無視される。
久しぶりに大泣きするので、彼女の黒髪を指でくるくると巻きながら一緒に居ることくらいしかできなかった。
すごいなあ、槇原敬之って。
秀逸な槇原敬之容疑者の歌詞たち
ミスチル桜井信者の僕でも、これだけ槇原敬之容疑者の秀逸な歌詞を引き出せる。
嫉妬するほどの感性。数分の曲のなかに物語を吹き込むうんざりするほどの才能。
「薬物依存に対して罰ではなく治療」を訴える声が多くなった今だからこそ、「もう一度」を願うのはそんなに許されないことだろうか。
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