「岐阜って感じだよね」と彼女は僕に言う。僕が言ったわけじゃないので、どこかのIPアドレスを隠蔽するような人は、僕を責めないでほしい。NHK大分の堀愛美キャスターを見ると、僕はあの日のポップコーン事件を思い出す。
中学2、3年生の頃だった。パークプレイスのゲームセンターにアンパンマンのポップコーン製造機が置いてあった。そのアンパンマンのポップコーン製造機は、ハンドルがついていて、ぐるぐると回してポップコーンを作る仕様だ。僕と彼女が入っていくと、そこに彼女がいた。仮に、そうだ、マナちゃんにしよう。そのマナちゃんが歳が離れた4歳くらいの女の子と一緒にいた。
マナちゃんはそれを回しながら、時折その女の子に「ガオー」って言いながらちょっかいを出していた。ケラケラ笑う女の子が今度は代わりにハンドルを両手で一生懸命回す。その最中も、マナちゃんはガオーって言いながらこしょこしょする。フロアにケラケラと女の子の声を響かせていた。
「あの子そっちと同じクラスだよね?」と彼女は僕に言う。「大人しいそうなんだけど、あんな風にきゃっきゃっできるんだね」 と女子特有のかわいいを見つけたようで楽しそうだった。するとマナちゃんが僕たちに気付き、恥ずかしそうにしていた。女の子のケラケラ笑いながらの「ガオー」に対して、「もういいから」とマナちゃんが諭していた。
出来上がりを知らせるアンパンマンの声と同時にポップコーンを取り出すマナちゃん。すかさず僕はアンパンマンに歩み寄り、数枚の100円玉を投入口にいれて「よし、ハンドル回しながらガオーって言っちゃうぞ」と張り切ると、顔を真っ赤にしてその女の子の手を引っ張ってどこかに行った。
僕を責めたてる彼女。「なんてデリカシーがないの」と、僕は初めて女の子に空気が読めないと言われた。しかも正義マンのアンパンマンの前で罵られる僕。中学生男子がポップコーンのハンドルを懸命に回しながら、同級生の女の子に怒られるというのは、どこを探しても僕しかいないと断言できる。正義マンのアンパンマンさえも僕を助けてくれない。「明日私から謝りに行くから何もしないで。間違っても朝の挨拶代わりにガオーとかしないでね」と彼女が言う。そう、すべてお見通しなのだ。
後日、僕は知ったのだが、「ポップコーンのハンドルはあんなに回さなくていいんだよ。回さなくてもポップコーンできるんだよ」らしい。彼女はマナちゃんに教えてもらったようだ。ポップコーン会議が行われて、ポップコーン同盟を組んだようで、ずいぶんと仲良くなり今に至る。時折行使される無慈悲なポップコーン安全保障の前に、僕は無力だ。
高校生の時に僕はふと思った。「あんなに回さなくていいんだよ」というのは、ひょっとすると僕がアンパンマンの前で罵られながらハンドルを回している姿を見られていたということなのだろう。ガオーという微笑ましいマナちゃんと、正義マンの前で罵られる僕。はたしてどちらが恥ずかしいだろうか。その結果を知るのが僕は怖くて、マナちゃんの前でガオーの話は一切できない。
大分に来たマナちゃんを見ると、ポップコーン製造機の前でガオーって言いながら子供をあやしていた女子を思い出す。NHK大分の堀愛実キャスターは、ガオーって言いながら子供をあやしそうな優しい女子を僕は勝手にイメージする。
ポップコーンのハンドルを回している人を見かけたら、そっとしておいてほしい。ハンドルを回さなくてもポップコーンはできるようだが、一心不乱にハンドルを回せる優しい大分にするべきだ。二度とアンパンマンの前で女の子に罵られる男子を生んではいけない。そして僕はポップコーンのハンドルを、いつかひとりで本気で回す。
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