旧日本軍の幹部だったおじいちゃんに聞かされたことがあります。
旧日本軍の悪行と悲惨な戦争に導いた指導者への批判とその反省。同時にソ連兵による悪行について。
家柄として教育者であることを大々的に喧伝していた女性教諭が、家柄として旧日本軍との関係が深い僕にこう言いました。
ソ連による侵攻と悪行は旧日本軍の兵士が自分たちを正当化するために作った噂。その洗脳を解くのが教育者の仕事。
君が代を嫌う教師だったことから、僕が嫌がらせのように歌ったり天皇陛下バンザーイで煽ったりしたことで(幼稚な自分)、親を呼ばれた経験がある僕がソ連兵へ差し出された娘たちを読んだ感想です。
政治思想としてではなく、真実が蔑ろにされることには耐えられない。双方とも事実として受け入れるべきだという立場です。
ソ連兵へ差し出された娘たちは真実だった
おじいちゃんの言っていたことが真実であることを裏付けてくれました。
ソ連・中国(満人や国民政府側を含めた)そして日本人の男たちから、性的被害を受けた女性たちが隠し通すことができなかった悲鳴を感じ取れる作品です。
満州開拓団の一員となった女性たちは、男たちから主導された文民移民として移住し、満人を追い出した加害者一団でした。
そして戦後、強者から弱者になり徹底的に女が利用される真実の物語です。
ソ連兵や中国だけではなく同じ開拓団の男たちからも被害
後述しますが誰を守りたいのかさっぱりわからない「わかったつもりで去っていき勝手なことを発信する人」からも、利用されてきた開拓団の女性たち。
ソ連の下級兵士から性的暴行を受け、その被害をソ連の憲兵で守るために開拓団の上層部がソ連上級兵士に掛け合い、接待として若い日本人女性を差し出すことを選択します。
ソ連が撤退すると、今まで妨げられてきた満人からの被害を受けるようになります。それを斡旋したと疑われる開拓団の男たち。
日本に帰る際に壁となった中国共産党側と国民政府側双方の中国兵士から被害を受けた証言も。
女性が強いられる性的被害という地獄の連鎖が綴られています。
開拓団を守ろうとした被害者である女性たちの葛藤
満州にも集団自決があったことが書かれています(女性教諭は沖縄だけにあったとしていた)。命を失うために、日本兵の前に並ぶ人たち。行列を作るほどの人だかりができる状況。
そんな集団自決を選ばずに生きる選択をした開拓団。
当初は性的に熟した女性が対象でしたが、どんな時代にも存在するように下の子たちを守りたいお姉さん的存在である女性の訴えもあり、18歳以上で未婚女性が性的接待の対象となります。
しかし開拓団のなかにもヒエラルキーがあり、そのルールは反故にされます。
下の子たちを思いやるお姉さん的存在な女性の妹は、対象であるにもかかわらず接待に参加しなかったことを恨む被害者女性の声。
そして帰国してからの被害。
慰霊祭では性的被害を受け開拓団を守ってきた女性たちに、「ソ連兵を追いかけていた」と酒の席で男たちから揶揄された証言も。
強調しておきますが、この男たちは開拓団の女性たちから守られた側であり利用してきた側です。その男たちから侮辱を受けたのです。
性的被害を受けた女性は、集団自決のために貞操を守った女性だけを嘆いたり賞賛したりする日本社会にも苦言を呈しています。
開拓団の被害者女性に向けて、同性による心無い言葉の暴力もあった。聴覚が弱いお針ちゃんという女性がいるのですが、同じ女性から受けた侮辱はこちらが悔しくなるほどの衝撃でした。
自分たちは何のために犠牲になったのか?
その答えを見つけ出せないおばあさんたちの葛藤を感じ取ることができます。
大分県出身の男性が開拓団の女性を利用した証言も
大分についての証言もありました。
帰国するために一時的に女を性として利用する妻子ある大分県出身者。その男との間にできた赤ちゃんのために、戦後必死で働く女性の証言。
徹底して性で振り回されてきた女性たちです。
大分だけは関係がないノンフィクションではけっしてありません。
今だからこそ本屋大賞ノンフィクション2022受賞を
今の時代だからこそ多くの人に読まれてほしい本であることから、本屋大賞ノンフィクション2022受賞に推薦します。
落合監督に迫る本も凋落する朝日新聞の本も良かったのですが、本気でジェンダーに向き合う時代にしたいのであれば読んでほしい。
大分では、女子中高校生スリーサイズを聞いた過去があるにもかかわらずMeToo運動ができる地元新聞社が問題になっていません。
地元新聞社によるセクハラの声をあげたのは、当時の女子高校生でした。
教育者はそんな勇気ある女子高校生を守るよりも、政治思想とNIE(教育に新聞を)と親和性が高い新聞社を税金でかばう。
財務省事務次官のセクハラでMeToo運動の席巻に大きく貢献した新聞労連やネット通信社の女性記者は、その声を無視しました。

この本にもある「わかったつもりで去っていき勝手なことを発信する人」が令和の時代に、未だに日本に存在する証左です。
今までのジェンダーに対する正論が、政治的な立場でがらりと方向転換をするのが日本です。
著者である平井美帆さんが執筆してから書店に出すまでの苦しみとして、こう明かしています。
女の書き手が女の目線から女性問題を書こうとすると、出版社側からも疎まれる。現代社会に未だ宿る「男たちによる無自覚」に結びつけることにメリットはないとまで言われる。
つまり男が不快に感じることを避けるノンフィクションを書くように、遠回しな助言を受けた。
ソ連兵へ差し出された娘たちから
なぜ男たちを嫌悪する女性がいるのか?
この理解が深まる本でもあるのが、ソ連兵へ差し出された娘たちだと感じます。
ご予算に余裕がない方は、大分県立図書館にもありますのでぜひ読んでください。
ソ連兵へ差し出された娘たちで響いた文
仕方がなかったと許容される前提として「自分が被害に遭わない」
性暴力被害で絶対に抜け落ちてはならないのは、当事者の声
ソ連兵へ差し出された娘たちから
「仕方がない」を簡潔に否定した突き刺さる文章と、性的被害における当然の感覚を世間に喧伝している人たちがなぜか被害者を政治的なマッチングとしてふるいにかけ発信する日本マスメディアへの警鐘として、2つの文章を選びました。