ベッド購入時にスプリングとピストンを間違える

普段はちゃん付けなんておふざけのときしかしたことがないのですが、タクシー運転手も実名を伏せる時代です。

だから妻ちゃんと呼ばさせてください。

妻ちゃんがベッド購入の時にスプリングとピストンを間違えて、そこから始まった女性店員さんとのミラクル会話のお話をしましょう。

シングルかダブルどちらかを購入するのか?

ふたりで意見がわかれていたのですが、妻ちゃんの希望に乗っかった某家具店の女性店員さんに押し切られ、ダブルからもうひとつ広いベッドになりました。

妻ちゃんは叶った希望を隠せない笑顔ではっきりと言い切ります。

「ピストンはどんな感じでしょうか?」

部屋の間取り、玄関や部屋のドアの大きさまで測るほど周到な妻ちゃんですが、時折こんなぶっとんだ発言をすることがあります。

「やれやれ、始まったよ」と僕は怪訝な顔で妻ちゃんにサインを送ったのですが、女性店員さんは質問に答えます。

「ピストンは良い感じで反発してくれるはずですよ!」

「こちらもやれやれだよ」と訝しい表情の僕を視界から外し、妻ちゃんに説明します。

「ウレタンマットレスになると沈み込むやすくなりますね。あと通気性に弱いです。ピストンを気にするのであれば、通気性も良いスプリングマットレスがおすすめですよ!」

朝ドラの主人公のような女性店員さんの熱意ある夜の営みのツボをついたセールストークにようやく気付いた妻ちゃんは、恥ずかしそうに「ごめんなさい、スプリングでした」と言い直します。

朝ドラ主人公の店員さんは「やだ、わたし」とつぶやき、頬を赤らめているミラクル会話を繰り広げたふたりを僕は無言で見つめました。

契約が終わり営みを知るスプリング派女性店員さんの深々としたお辞儀に何度か振り返りながら店内を出ると、妻ちゃんは言います。

「営みのピストン状況を説明できるなんて、ベッド販売のプロだよね。あとかわいかった!」

僕は言いました。

「いやいや、あなたがピストンと最初に言ったんだよ」と。

ベッド購入時にスプリングとピストンを間違えたこんな妻ちゃんを、えーらしいと僕は思うのです。